灯台もとテラス

articles 活動内容

2025.11.27

木造・省エネ・太陽光が長浜を変える!ニアリーオフグリッドシステムオープンラボ

2025年11月12日(水)、滋賀県長浜市木之本町にある株式会社バイオマスアグリゲーションの久木さんのご自宅でニアリーオフグリッドシステムの実証実験を公開するオープンラボが開催されました。

参加者は実際の住宅内を見学し、木造建築の構造やバイオマスエネルギーの仕組み、そして暮らしとエネルギーのつながりを実感。

リアルな現場を見て学べる貴重な機会です。

太陽光パネルの設置

現地に到着すると、ちょうど屋根の上で太陽光パネルの設置作業が進められていました。
これまで久木さん宅では、薪ストーブや薪ボイラーなどのバイオマスエネルギーで暮らしのエネルギーをまかなってきました。

今回の実証では、太陽光発電の効果とメリットを検証するため、新たに太陽光パネルと蓄電池バッテリーを導入します。
この2つを組み合わせることで、家庭内で使う電力の大部分をまかなう自給自足型の暮らしが可能になります。

発電した電気は、照明や冷蔵庫、洗濯機などの家電のほか、PHV(プラグインハイブリッド車)の充電にも活用できます。

自宅で車の電力までまかなえるというのは、エネルギーの効率化だけでなく、災害時の備えとしても大きなメリットだと感じました。

さらに、使いきれずに余った電力は蓄電池に蓄えられ、夜間や発電量が少ない時間帯に再利用できる仕組みです。
電力会社からの買電をなるべく減らし、電力を貯めて使うことで、長期的な電気代の削減にもつながります。

太陽光発電の効率を最大化する「オプティマイザー」

今回の実証で注目されているのが、一般住宅ではあまり見かけない「オプティマイザー」という機器です。

この装置は太陽光パネル1枚ごとに電圧を制御し、影や積雪などの影響を最小限に抑えることができます。

この機械がオプティマイザー
この機械がオプティマイザー

発電性能を確かめるため、14枚のパネルを7枚ずつ2回路に分け、
・片方はオプティマイザーあり
・もう片方はオプティマイザーなし
という比較実験を行います。

通常の太陽光発電システムは、パネルを直列につなぐため、一枚でも影や積雪によって発電効率が落ちると全体の発電能力が低下してしまいます。

しかし、オプティマイザーを設置すると、影になった部分以外のパネルは影響を受けません。

多くのパネルを設置するメガソーラーや産業用PVに導入することで、発電量の最大化とメンテナンスコストの削減が期待できます。

今回の実証では、オプティマイザーの有無による発電量の違いを長期的に検証していきます。

「熱は熱でまかなう」という考え方

オープンラボは、久木さん宅の見学からスタート。家のあちこちにエネルギーの工夫が散りばめられています。

株式会社バイオマスアグリケーション 久木裕さん

一般的な家庭では、暖房や給湯といった「熱」に関わるエネルギーが、全体の半分以上を占めると言われています。

多くの住宅では、太陽光発電でつくった電気を使って暖房や給湯をまかなうのが主流ですが、久木さん宅では「熱は熱で解決する」という考えのもと、暖房や給湯に必要な熱の大部分をバイオマス(薪ストーブや薪ボイラー)によって確保。
これにより、貴重な電力を、照明や家電など電気でしか動かせない用途に優先的に使うことができるのです。

建物の工夫についてはこちらの記事も参考にしてください。長浜カーボンニュートラルツーリズムvol.1-2023.02|エネシフ湖北

薪ストーブ

暖房には薪ストーブを採用。
薪ストーブは、ただ部屋を暖めるだけではなく、やかんでお湯を沸かしたり、煮込み料理をしたりと、生活に役立つ熱源として機能しています。

薪ボイラー

薪を燃やして熱を生み、その熱を温水としてタンクに蓄える仕組みです。
夏は月に2回、冬は2〜3日に1回薪をくべるだけで、家庭で使用する給湯や暖房の多くをまかなえます。

さらに、家中には温水を循環させる配管が通り、壁に設置したパネルヒーターからじんわりと放熱。冬はエアコンなしでも、部屋全体が温まります。

久木さん宅はモデルハウスとして実験的に薪ボイラーを導入していますが、実際の活用場面としては、一集合住宅や住宅街で複数の家庭の熱源を管理する「地域熱供給」やホテルや温浴施設、病院などでの利用が想定されているそうです。

参加者から「実際に住宅街での活用事例はありますか」と質問も。

東京、大阪などの都心地域では地域冷暖房が普及しており、札幌の中心部ではバイオマス燃料を利用した大規模な地域暖房が導入されているとのこと。

こうした取り組みが町ぐるみで広がると、エネルギー自給率の向上や資源循環の観点からも多くのメリットが期待できます。

自然の力を借りる賢い設計(パッシブデザイン)

さらに、太陽光や風など自然のエネルギーを生かす「パッシブデザイン」も取り入れています。
太陽高度を計算した軒や、空気を効率的に外に流す勾配天井と高窓など、風や光といった自然の力を最大限利用することで、エアコンの稼働時間を大幅に減らしています。

天井付近に上がった熱い空気は高窓から排出される

この設計により、一般的な住宅と比べてかなり少ない電力で暮らせるとのこと。
数年前までは年間10時間ほどしかエアコンを使わなかったという話には、参加者から驚きの声があがりました。
近年の猛暑で使用頻度は増えているとのことですが、このパッシブデザインがなければ、必要な電力はもっと多くなっていたでしょう。

木で囲まれた家は、どこかゆっくりとした空気が流れています。
「エネルギーの話」と聞くと難しく感じますが、人の暮らしの延長線上にあるものなのだと改めて実感しました。

説明会:「地域でエネルギーを回す」という未来

住宅見学会の後は、株式会社バイオマスアグリゲーション長浜市株式会社シガウッドの3者から、再生可能エネルギーを取り巻く最新情報と今後の展望について発表が行われました。

株式会社バイオマスアグリケーション:なぜ今エネルギーを考える必要があるのか

株式会社バイオマスアグリケーション 矢延さん

太陽光発電を取り巻く環境の変化について解説しました。
かつて約300万円程だった太陽光の導入費用は、現在では約180万円。
費用は下がる一方、電気料金は年々上昇しており、「太陽光の導入は今後さらに進むだろう」と語ります。
とはいえ、180万円の初期投資は大きな負担であることも事実です。
そこで注目されているのが「PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)モデル」。

出典:環境省:PPA等の第三者所有による太陽光発電設備導入について

事業者と自治体が契約を結んで、初期費用なしで太陽光を設置し、使った電気の分だけ安価に支払う仕組みです。
長浜市も地域主導でのPPA普及を掲げています。

また今後は、太陽光パネルの経年劣化にともなう再設置やオフグリッドシステムの開発など、新たな需要も増えていくと指摘しました。
電気を作る技術がここまで進化していることに驚き、これからの展開が大いに期待される技術だと感じました。

長浜市:ゼロカーボンビジョンの取り組み

続いて、登壇したのは長浜市の桐畑さん。
長浜市が2050年までに目指す「ゼロカーボンビジョン」について説明がありました。

長浜市は、ゼロカーボンビジョン達成に向けて次の4つの要素を掲げています。

  1. 自治体による脱炭素政策:ゼロカーボンを通じた地域づくりの推進

  2. 人材育成:エネルギーを支える“担い手”を増やすため、環境教育や実践型学習を強化。子どもだけでなく、地域で実際にエネルギー事業を担う大人の育成も重視。

  3. エネルギーエージェンシー:省エネ対策、再エネ事業立ち上げなどのサポート

  4. 地域主導型エネルギービジネス:地域の事業者が主体となってエネルギービジネスに取り組める仕組みづくり

今回のオープンラボは、このうち「人材育成」 と「エネルギービジネス」の2つと密接に関わる場でもあると語りました。

エネルギー代金の地域外流出の課題

引用:ながはまゼロカーボンビジョン2050

長浜市では、家庭や事業で使う電力・ガス・燃料の多くを市外、そして海外から購入しているのが現状です。
その結果、年間308億円ものエネルギー代金が地域外に流出していると指摘。

普段意識することはありませんが、数字で見ると非常に大きな問題だと感じます。
人口減少が進み、地域経済の成長が難しくなるなかで、エネルギー代の流出をそのままにしておくことは大変な損失です。
そこで重要になるのが、
「地域で生み・地域で使い・地域で循環するエネルギーの仕組みづくり」
このテーマが、長浜市にとってこれからの地域経済を支える鍵になると強調しました。

地域でエネルギーをつくり支える人と会社を増やす

エネルギーの地産地消を進めるためには、仕組みだけでなく、それを支える人材と企業が不可欠です。

「地域で施工できる技術者」

「再エネを継続できる企業」

こうした“地域側の担い手”を増やしていく必要があると説明。

既に市内で取り組む企業と連携し、地域内で再エネ事業を回せる体制を整えていくことが重要だと語りました。

ゼロカーボンは“CO₂削減”だけではない

引用:ながはまゼロカーボンビジョン2050

ゼロカーボンの取り組みがもたらすメリットとして、以下の例が紹介されました。

・住宅の省エネ化
→ 快適な住まいの実現、健康リスク(ヒートショックなど)の軽減

・木材活用の促進
→ 林業の活性化、森林管理の改善

・交通の電動化
→ 地域移動の利便性・安全性の向上

エネルギーを起点とした取り組みが、福祉・健康・産業・環境など幅広い分野へ波及し、地方創生の大きなチャンスになるとのことです。

木造建築の可能性を示す株式会社シガウッドの取り組み

株式会社シガウッド 取締役社長中村修三さん

ツーバイフォー工法を中心に木造建築を展開している株式会社シガウッドさん。
住宅だけでなく、金属加工工場・農業用倉庫・事務所など、大スパンの建物も木造で施工しており、25m×25mの柱のない空間や、16mスパンの二階建てなど、鉄骨造が主流とされてきた分野にも木造建築を展開。
「ここまで木造でできるのか」と驚かれることも多いと言います。

木造だからこそ生まれるメリット

中村さんは、木造のメリットを次のように解説しました。

・CO₂を吸収した木材をそのまま建物に固定でき、環境負荷が低い

・基礎や地盤改良費が抑えられ、鉄骨より2割ほどコストダウンできる場合もある

・木は熱を通しにくく、夏は涼しく冬は暖かい環境になる

天井温度では、鉄骨の倉庫50℃に対し、木造は30℃ほどまで抑えられた事例も紹介し、暑さ・寒さの厳しい現場環境で働く人にとって、木造化は作業環境の改善に直結すると話します。

びわ湖材の活用や保冷倉庫との連携も

画像引用:HOZONE 農業用定温倉庫 | 株式会社シガウッド

びわ湖材(県産材)の活用にも積極的に取り組み、店舗、農業用倉庫、保冷倉庫まで幅広く手がけるシガウッドさん。

シガウッドが構造を手掛けた木造保冷倉庫で、超省エネ型の保冷システム『HOZONE(ホゾン):HIJ.社』が導入され、一般的な保冷設備と比べ、電力消費が3分の1まで減った事例も紹介されました。

「木造による省エネ性 × 設備の省エネ性」が相乗効果を生むことが分かります。

自社オフィスで示す“木造+太陽光”の効果

2014年に建てた自社製の大型木造社屋も紹介。

画像引用:シガウッド本社 | 株式会社シガウッド

高断熱で熱を伝えにくい木造2×4工法で建てられた南向きのデザインに、23.5kWの太陽光パネルを載せた建物です。
家庭用エアコン数台で社屋全体の冷暖房をまかなうことができ、「売電収入が使用電力代を上回り、プラス収入となった年もあった」といいます。

また、庇・外付けブラインド・連続空調などを組み合わせ、快適で省エネな空間づくりを実現。その取り組みは 関西エコオフィス奨励賞も受賞しました。

木造 × 省エネ × 地域材

中村さんは、木材活用が

・CO₂削減

・省エネ

・県産材の利用促進

・企業の環境価値向上

といった多方面へ波及するとまとめ、「エネルギーの観点からも、木造建築は地域に大きな可能性をもたらす」と語りました。

参加者との対話で広がる可能性

株式会社ひらつか建築の平塚一弘さん

今回、オープンラボに参加された株式会社ひらつか建築さん。
シガウッドと連携しながら、超省エネ保冷倉庫HOZONEの普及に取り組んでいます。

断熱材を結露させないための防湿技術や、通常18℃以下にならない家庭用エアコンを使って、10〜15℃まで冷やす独自技術の特許を取得しました。

これにより、従来よりも小さなエネルギーで米や野菜を保冷できるようになり、農業の現場でも活用されています。

そこで「冷やすことの技術は、データセンターなど他分野にも応用できるのでは」という話題に。
さまざまな企業が連携することで、省エネ市場の可能性はさらに広がると期待がふくらみます。

エネルギーの課題は、一つの業界に留まらず、横に広がる可能性を秘めていることを改めて感じました。

まとめ

今回のオープンラボ開催の重要な目的は、参加者同士がつながり、再エネ分野の課題解決を共有できるネットワークを作ること。

「皆さんと一緒に、長浜市の再生可能エネルギー産業を盛り上げていきたい」

そう呼びかける久木さんの言葉に、会場の空気が前向きに高まります。
地域の事業者が連携することで、長浜から新たな再エネビジネスが生まれる未来を感じさせる時間となりました。

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