活動内容

湖北長浜の地域脱炭素を実現する4つのファクター
こんにちは。エネシフ湖北です。
さて、前回は、脱炭素に取り組むことは”地域の生存戦略であり、成長のチャンスになる”
という内容の記事を書きました。
↓前回記事
お読みいただいた中で、
「じゃあ長浜では具体的にどう進めていくの?」
と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回はそのあたりについてご紹介していきたいと思います。
長浜の脱炭素の取組に期待が寄せられる理由の一つは、
脱炭素を実現するための”戦略”がしっかり出来つつあることです。
しかもその戦略は、市の名前だけ変えたらどこでも当てはまるような内容ではなく、
“長浜の強みや特長”を踏まえた、長浜らしい内容になっています。
その地域脱炭素を実現するために必要な戦略、要素となる
4つのファクターについて詳しく書いてみます。
●4つのファクター●
まず4つのファクターとは、単に”CO2排出量をゼロにする”ためのものではなく、
地域課題の解決や魅力向上に資するゼロカーボン社会の実現のために必要な要素という意味です。
具体的には以下のような内容です。詳しく紹介していきます。
4つのファクター
①地域主導型エネルギービジネス
② 自治体による脱炭素政策
③エネルギーエージェンシー
④環境未来人材育成
※説明の都合で順番を入れ替えています。
(長浜市脱炭素社会構築基本計画 中間報告)
[①について]
まず、①の地域主導型エネルギービジネスです。
単なる各個人の心がけというレベルでなく、きちんとビジネスとして成立させていく中で、
エネルギーやお金を地域でまわしていく仕組みを作りましょうということです。
そのためのビジネスモデルがいくつか紹介されました。
[②について]
次に、民間と並んで重要なのが、②自治体による脱炭素政策。
基本計画、戦略の策定もですが、公共施設の活用や地域ビジネスの育成等、果たす役割は極めて大きいです。
[③について]
①、②は比較的オーソドックスな内容ですが、それだけでなく、
民間や行政の隙間を埋める役割を持つのが③エネルギーエージェンシーです。
欧州において、気候変動対策に重要な役割を果たしているエネルギーやまちづくりを専門とした
中間支援組織のことをエネルギーエージェンシーと呼びますが、
そうした機能を持つ組織を立ち上げていくことが、ひとつのカギになります。
[④について]
最後に、④環境未来人材育成。
産業・社会構造が変わる中、次世代をつくる人への投資には地域が本気で取り組む必要があります。
この4つの柱がうまく機能し、相互に連携することで、長浜の目指す脱炭素社会に近づきます。
もう少し詳しく解説していきます。
ファクター① 地域主導型エネルギービジネス
まず、脱炭素を通じて地域が経済的なメリットを得るために大切なことは、
地域主体が自らエネルギーに関する事業を実施するということです。
例えば、エネルギー事業を地域で立ち上げ、各家庭や企業が負担する電気代、光熱費の支払い先を、
域外の産油国や大企業等から“地域の地元企業”へ変えることで、その分地域に雇用を生み、
事業者利益を生む流れを作ることができます。
具体的に、どうすれば良いのでしょうか。
ファクター①-1 地域主導型PPA事業
地域でエネルギー会社を立ち上げるというのはどういうことか、イメージが湧きにくいかもしれません。
しかし、すでに事例は全国にあります。
代表的なビジネスモデルが、PPA事業です。
PPAとは、Power Purchase Agreemenの略(電力販売契約)です。
【PPA事業の主な流れ】
◎行政や企業、個人等の電気の需要家が、設置場所(公共施設・民間施設の屋根、駐車場)をPPA事業者に貸し出す
↓↓
◎PPA事業者が、借りた屋根に太陽光発電等の設備を設置
↓↓
◎需要家は使用した分の電力料金をPPA事業者へ支払う
↓↓
◎PPA事業者は電力料金や売電による収益で投資を回収する
つまり、「再エネを自分の屋根に設置したいと思ってるが、初期投資がネック」と思っている場合、
PPA事業者に屋根を貸して代わりに設置してもらい、その太陽光発電設備からの電気を購入する、
というスタイルです。
第3者所有モデルとも言われます。
滋賀県内の身近な例でいうと、湖南市においても地域のエネルギー会社である
「こなんウルトラパワー株式会社」が、PPA事業を実施されています。
湖南市では、市や地元企業等のさまざまな主体が出資し、「こなんウルトラパワー株式会社」を2016年に設立され、
自治体地域新電力事業として電気の小売事業等を全国に先駆けて実施してこられました。
その次の展開として、2021年から、太陽光PPA事業を開始されています。
滋賀県湖南市の取組み(経済産業省近畿経済産業局ウェブサイト)
長浜には、大きな工場が多くあります。
さらに市町村合併により多くの庁舎もあります。
こうした屋根を地域資源として、PPA事業を行う地域エネルギー会社へ提供していくことで、
事業を軌道に乗せることができる可能性があります。
また、地域の中小企業にとっても、出資して利益を得ることや、地域エネルギー会社とタッグを組むことで、
初期費用を抑えて再エネの導入を進めることもできます。
長浜の強みの一つは、産業界や市民の結束の力の強さです。
先述の「長浜市脱炭素社会構築基本計画検討会」は、「湖北環境経済協議会」が共催となっていましたが、
この協議会は湖北の経済・産業界が集い「環境」と「経済」をテーマに活動されています。
これまで開催したゼロカーボンに関するシンポジウムには地元企業を中心に毎回100名を超える方が参加しており、結束の強さが伺えます。
何より、こうした会を立ち上げ、号令をかけるリーダーがいることが大きな強みです。
さて、地域主導型PPA事業が一つ目のビジネスモデルですが、これは”市街地・産業モデル”と言えます。
しかし長浜は、市町村合併によって市街地・農地・森林と多くの要素を一つの市の中にあわせ持っています。
主に市の北部には豊かな自然が広がっており、その自然を生かした一次産業もあります。
そうした自然や一次産業を生かしたビジネスモデルも考えられます。
それが”ビレッジモデル”です。
ファクター①-2 エネルギー農家、林家
エネルギーと一次産業との掛け合わせにも、さまざまなパターンが考えられます。
まず、農地での発電事業です。
農地に太陽光パネルを置くことで、食糧のみならずエネルギーも生産し、
農家の副収入にするという在り方が考えられます。
しかし、これにはある欠点が。
農地は日本の食糧生産を支えるだけでなく、琵琶湖環境を含む地域の環境保全や
文化的価値等の多面的機能があると言われており、
大切な農地に無秩序に太陽光パネルを置くことは憚られます。
これを踏まえ、日本全国でさまざま工夫や取組が進んでいます。
長浜においても、環境と調和したソーラーシェアリングのあり方を模索していくことが大切です。
さらに、積雪量の多い長浜では、雪も考慮する必要があります。
これは一見ハンデに思えますが、こうしたハードルこそイノベーションのチャンスかもしれません。
例えば福島県二本松市では、縦型の太陽光発電が設置されています。
こうした取組事例も参考にしながら、地域の特徴を踏まえたチャレンジをしていけると良いと思います。
長浜には新しいことにどんどんチャレンジする意欲的な農家もいて、
長浜産のお米を使用したプラスチック(ライスレジン)の生産に向けて動き出す等、
すでに取組はスタートしています。
また農業だけでなく、林業家が木質バイオマスの熱をエネルギーとして活用することもできます。
例えば、長浜市の姉妹都市である長崎県対馬市では、地域の林業事業者が参画しエネルギー会社を立ち上げ、
地域材を活用した地域での熱供給事業を開始されています。
このように一次産業にエネルギー事業を掛け合わせ、新たな収入源とするとともに、
地域資源を生かした新しい産業として育てていくことができます。
これらの取組により、一次産業の魅力向上にも繋がり、地域の自然環境に手入れをする人が増え、
生活環境を保全するような好循環を生み出せる可能性もあります。
[好循環のイメージ]
◎一次産業×エネルギーの新しいビジネスの創出
↓
◎一次産業の所得向上、魅力向上
↓
◎一次産業の活発化
↓
◎地域の自然環境の維持、機能向上
ファクター①-3 断熱リフォーム事業
次に、断熱リフォーム事業です。
ゼロカーボンを目指すにあたり、既存住宅の排出量削減は必須です。
ただ、ゼロカーボンとかいう以前の感覚として…
冬のお風呂、寒くないですか?
1年間で全国で約1万7000人がヒートショックに関連した入浴中急死に至ったという推計結果もあり、
高齢化社会において健康寿命を伸ばす意味でも断熱機能の向上は重要です。
家の断熱化を進めるわかりやすい対策例でいうと、木製サッシを使うというのもあります。
冬の窓のアルミサッシって、とても冷たいですよね。これはもはや冷却装置です。
アメリカではアルミサッシが禁止されている州もあるとか。

アルミのサッシは冬に触るとキンキンに冷えています。しかも結露して、カビの原因にも。
熱ロスのうち窓が占める割合は約36%というデータもあり、窓への対策は重要です。
その他、外付けブラインドや地元材を使った断熱材の活用等、
地域の資源や地域の特色を生かしたリフォーム事業を展開できる可能性もあります。
地元の工務店にノウハウを取得してもらい、断熱リフォーム事業を脱炭素政策として促進・活発化させていけば、
脱炭素に資するのみならず、地域の新しい事業にもなりますし、何より快適な住宅を増やしていけます。
さて、前回の記事で、“脱炭素は、雇用問題だ”とお話しました。
地域活性化・地方創生といえば、雇用の創出も大切な観点です。
一方で、実際のところ地方は人口減少、高齢化による人手不足で、
地域の生活や環境を守る上で必要な産業へ人手がまわっていないという現状もあります。
時代にマッチし、意欲のある人材にとって魅力的な雇用を創出することが重要になってきています。
そういう観点でも、既存の産業にエネルギーや脱炭素を掛け合わせることで新しいビジネスチャンスとする
ということは、SDGsにも関心の高い若い世代にとっても魅力ある就職先になるのではないでしょうか。
ファクター② 自治体による脱炭素政策
一つ目のファクターが非常に長くなってしまいましたが…
ようやく二つ目のファクター、自治体による脱炭素政策です。
「長浜市脱炭素社会構築基本計画」の中間報告では、自治体の役割として主に以下の3つが提示されています。
【1】各政策分野における脱炭素×地域課題解決を図るための政策立案
【2】需要家として地域由来の再エネを活用・購入
◎公共施設における地域エネルギー会社によるPPA事業促進
◎ごみ発電の地域新電力への売電
◎公共施設の化石燃料ボイラのバイオマスボイラへの転換
【3】再エネ「促進区域」の指定・合意形成
(長浜市脱炭素社会構築基本計画 中間報告)
このような基本計画や戦略を作り、皆が目指すべき方向性や進め方を示すことが行政の大きな役割です。
あわせて、シンポジウムの開催等を通じて、その計画や戦略を市民に届けていくことも大切です。
また、地域主導型ビジネスの立ち上げ時期においても、モデル事業として位置付けること等により
市が予算や信用の面で支援することもできます。
さらに地域主導型ビジネスを育成するために、公共施設等の公有財産を地域の主体へ開放していく、
という視点も大事です。
例えば、前述の地域のPPA事業者へ屋根を貸すこともできます。
長浜は1市6町が合併しており、公共施設を多く保有しているため、
これらを活用し、地域のビジネスが軌道に乗るまで支援できます。
しかしこれらのビジネス支援は、ある意味市場を歪めることにもなりえるかもしれません。
公平性を保つことが大切な行政にとって民間との距離の取り方は難しいところです。
ここで大切なのは”生み出す価値の数値化”です。
これまで見てきた通り、脱炭素政策は、地域版の雇用・経済政策になり得ますし、
環境保全や人材育成等、幅広い価値を生み出します。
これの価値を数値化し、市民にしっかり伝えていくことで、
地域主導型ビジネスに行政が支援していくことの合理的な理由を説明できるのではないでしょうか。
基本計画では、前述の通り、地域主導型ビジネスが地域に生み出す経済価値を数値化し、
シミュレーションしています。
こうした取組を継続することで、行政と民間の良い連携に繋がるのだと思います。
また、前回の記事でも書いたとおり、地域の土地利用や再エネの開発に関する地域の合意形成を進める上でも、
行政の役割は大きいと思います。
ファクター③ エネルギーエージェンシー
3つ目のファクターは、「エネルギーエージェンシー」です。
少し聞き馴染みのない言葉かもしれません。
脱炭素エネルギーに関する政策や事業を行うには”専門性”が必要です。
しかし、これらを自治体の職員や地域の企業だけが担うのには限界があります。
ヨーロッパでは、脱炭素エネルギー政策や事業の取組を支えるため、
知見やノウハウを持ち、コンサルティングサービスの提供等を行う機関が存在し、
それらのことを総称としてエネルギーエージェンシーと呼ぶようです。
脱炭素やエネルギーに関する中間支援組織のようなイメージですが、ヨーロッパにおいては、
専門的な人材が雇用されいるようで、地域に特化したシンクタンクやコンサルに近いのでしょう。
滋賀県立大学の平岡先生らによると、エネルギー・エージェンシーの活動・事業をおおまかに整理すると、
以下の3つに分けられるとのことです。
①住民・事業者へのエネルギー対策に関する情報提供・助言
②教育・人材育成
③自治体の気候エネルギー政策・事業に対する支援
エネルギー自立と持続可能な地域づくり(昭和堂)から引用
①については、住民や企業向けに、省エネや行政の支援についての情報提供等のアドバイスを行うことです。
ヨーロッパでは、断熱効果を向上させることで、光熱費を削減させ、貧困対策に結びつける等、
幅広い取組が行われているようです。
また、地域の中小企業にとっても、
もはや脱炭素を無視して事業を継続していくのは難しい時代に入りつつあります。
地元企業の脱炭素への戦略作りや取組支援等、今後ニーズはさらに高まるのではないかと思います。
そして、②教育・人材育成、③自治体の気候エネルギー政策・事業に対する支援ついては、
すでに長浜でも少しずつ実質的な機能を担う存在は育ちつつあります。
後ほど記載しますが、長浜においても、すでに教育・人材育成の取り組みは、スタートしています。
また、現在すでに大学の先生やコンサル等専門家がブレーンとして取組を支えてくださっています。
そのおかげで、戦略である基本計画も専門性が高く、内容の濃いものとなっています。
こうしたすでに実施されている、「専門家による知見の提供」や「人材のマッチング機能」、
「情報発信機能」等をうまく”組織化”することができれば、
地域のプラットフォーム、ローカルシンクタンク、コーディネーターとして、
まちづくりと絡めた脱炭素のプロジェクトの立ち上げや推進に繋がります。
長浜ではエネルギー事業・エネルギー政策だけでなく、
こうした中間支援組織・プラットフォームの立ち上げも視野に入れながら取組を進めていきます。
もちろん、これらの組織体制については今後さらに詳細を検討していくことになります。
ファクター④ 環境未来人材育成
産業構造が変化する中、新時代に適応した人材を生み出すために、人材育成は大切です。
長浜においても、すでに取り組みはスタートしています。
例えば、湖北市民会議さんが長浜市立北中学校の生徒会向けに講座、ワークショップを行われました。
長浜市立北中学校 ウェブサイト
その成果が基本計画の中間発表に合わせて披露されており、中学生とは思えない高いレベルの取組成果です。
今後さらに取組が進むことを期待させるものでした。
また、高校生との連携も進んでおり、株式会社バイオマスアグリゲーションの久木さんが
高校生への授業を行ったほか、エネシフ湖北も協力しながら、地元高校生向けの企画も多数行っております。
今後、学校の現場においても、さらに地域と連携した教育が求められるとのことです。
しかし、教育現場や教員のみで地域や脱炭素や環境の教育を行うには限界があります。
そこで地域側で、人材や視察先のメニュー化・企業や人材と教育現場とのマッチング機能等を
組織化していけば良いのではと思います。
また、ローカルSDGsや脱炭素に関する“ツーリズム”という観点でも少しずつ動き出しています。
県外・市外の若者に、長浜というフィールドに来てもらい、
視察を通じて、環境や脱炭素について学ぶ機会を提供する人材育成プログラムもスタートしています。
こうしたプログラムを通じて、人の循環、交流を作り出していきたいと思っています。
【しがCO2ネットゼロ次世代ワークショップ】DAY3|長浜市・まち歩きフィールドワーク
こうした人材育成、人材交流のプログラムも長浜市の戦略では重視します。
以上、4つのファクターについての説明でした。
湖北長浜、みんなの共通ビジョンとなり得るゼロカーボンシティながはま
ここまで書いてみて改めて思うのは、やはり長浜は脱炭素、
ゼロカーボンというテーマと相性が良いということです。
長浜は、市町合併を経て、観光地、市街地、農山村、新興住宅地、古い集落、農地、
森林等多様な暮らしや文化、自然が同居している市です。
多様な長浜市民にとって、”脱炭素”や”ゼロカーボン”というテーマは、
共通のビジョンやストーリーになり得ると思うのです。
北部でも南部でも市街地でも農地でも森林でも関わることができます。
他にも地方創生のネタ、長浜の強みはたくさんありますが、
地域脱炭素はオール長浜で取り組めるようなぴったりなテーマだと感じます。
だからこそ、ゼロカーボンを長浜の生存戦略、成長戦略のど真ん中に位置付けるべきなのではないかと思うのです。
長浜にはプレイヤー、リーダーがたくさんいます。
その多くが、今、脱炭素やエネルギーの分野に目を向けられています。今後さらに加速していきそうです。
終わりに
今回は4つのファクターについて書きました。
長いブログになりましたが、まだまだ戦略については書き尽くせていないので(笑)、
次回以降も湖北長浜の脱炭素戦略について、引き続き書いていこうと思います。
今後の活動にもぜひご期待ください!

エネシフ湖北のメンバーとして気まぐれに記事を執筆。湖北地域の面白い動きや地域づくりに関するオピニオン等を発信。